大判例

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福岡高等裁判所 平成12年(う)314号 判決

被告人は,以前に不正カードを使用した者として博多大丸の職員3名から取り押さえられ,そのまま,駆けつけた警察官4名に身柄が引き継がれたこと,被告人は中央署への同行を求めて説得する右警察官等に対して,自分が博多大丸の職員から身柄を拘束されたことについて抗議したり,トイレに行くことを要求したりし,連行開始後も,同店の職員用のエレベーターに乗せられる際には,「俺を人目にさらすつもりか。俺は乗らんぞ。」と述べるなどして,連行されることに対してきわめて拒否的な態度を示していたこと,4名の警察官は,被告人の前方及び後方に各1名が位置し,1名が被告人の左側に位置して被告人の左腕を巻くようにしてつかみ,残りの1名が被告人の右側に位置して被告人の腰に手を当てて被告人を連行し,そのまま中央署に到着したこと,中央署に到着後も,被告人は大声で抗議を続けていたことが証拠上明らかに認められる。以上の事実からすると,被告人は,右警察官等が中央署への連行を開始した平成11年2月9日午後2時ころの時点で,実質的に逮捕されていたと認められる。さらに,被告人は,通常逮捕される同日午後8時20分まで,右取調室に留め置かれたこと,その間,1名以上の警察官が被告人の事情聴取に当たり,その動向を監視していたこと,同日午後3時ころ,被告人は,事情聴取に当たる警察官に対して当番弁護士の電話番号を教えるように求めたことが,証拠上明らかに認められる。また,被告人は,通常逮捕されるまでの状況について,公判において,「その日は,午後3時から組事務所の事務所当番だったので,警察官に対して,非常に重要な用事があるので帰して欲しいと言ったが,帰してくれず」電話連絡もさせてくれなかった。そこで,当番弁護士を呼んでくれるように要求したが呼んでくれず,自分で電話をさせてもくれなかった。取調室から出ることも許されなかった。」旨供述するが,これは,弁護士が,同月10日,11日及び18日に接見した際の被告人の供述とも符合すること,中央署警察官は,被告人の通常逮捕後直ちに当番弁護士の電話番号に連絡をしていることからすると信用性が高く,これに反する警察官の公判供述は信用できない。そうすると,被告人の右供述どおりの事実が認められ,通常逮捕にいたるまで,実質的な逮捕状態が継続していたと認められる。

として,それを違法とした。もっとも,採尿手続自体については前記の通常逮捕前の身柄拘束の違法性が著しく高いとは言えないとして被告人の尿の鑑定書等の証拠能力は肯定した。

控訴審では,弁護人が警察官による同行開始時点以降の身柄拘束の違法性に加え,これに先立つ百貨店保安課員による取り押さえ行為につき,私人には現行犯以外の場合には逮捕は許されないことなどを理由にその違法性を主張したのに対し,以下のとおり判断を示したのが本件判決である。

2 判決理由

まず,百貨店の保安課職員らによる被告人の取り押さえ行為が違法なものであるかどうかについて検討する。当審認定事実によれば,数日前に同じタオル売り場において,被告人が盗難カードを利用してタオル等の商品をだまし取ったことが既に判明していたこと,同日も現にタオル等の商品の購入のための前示のような行動をしていることなどに照らすと,保安課職員としては,右のように嫌疑が極めて濃厚な被告人から事情を聞くために被告人を引き留めて事務室への同行を求めるのは当然であり,そのために立ちはだかり同行を求める程度のことは許容される限度内の行為であるから,事務室への同行を求めたこと自体に何ら違法はないことは明らかである。なお,当日のタオル等の購入に向けた行為については,その途中から急に喫煙所の方に移動するという被告人の不審な挙動や,同じ売り場における従前の行動に照らすと,被告人は,商品をだまし取る行為に既に着手していたといえるから,客観的には詐欺未遂の現行犯人と見ることができると解される。さらに,被告人は,保安課職員に突進し突き飛ばして逃走を図ろうとしたのであるから,その行為は粗暴かつ危険なものであったといわざるを得ず,暴行の現行犯人とも見ることができる状況にあった。そして,数日前のカード不正使用による詐欺の被害事実につき根拠のある高度の嫌疑をかけられている被告人が,たまたま再び現れ,同種の行為に及ぼうとしている場合に,事情聴取の説得に応じないばかりか,突き飛ばしてまで逃げようとする粗暴な行為に及んでいる状況の下においては,被害を受けた店舗の従業員が手をかけて引き留めるのはもとより,警察官の到着を待つまでの短時間,逃走を防止するためにこれを取り押さえておく程度のことは,対応措置として社会通念上やむを得ない行為というべきである。本件では,保安課職員らがいきなり取り押さえたものではなく,嫌疑が極めて濃い被告人に対し,その出方に応じて段階を踏んで取り押さえるに至ったものであるから,その方法も社会通念上やむを得ないと考えられる範囲を逸脱しているとはいえない。以上の状況からすれば,保安課職員が被告人を取り押さえたことにつき,これを違法ということはできない。

次に,保安課職員から被告人の身柄の引き渡しを受けた警察官らが,被告人を中央警察署まで連行し,通常逮捕状が発付されるまで同所に留め置き事情聴取を行った行為に違法があるかどうかを検討する。当審認定事実によれば,駆けつけた警察官4名は,保安課職員らに被告人を放すように告げ,以後は,警察官が被告人と対応したが,被告人は保安課職員らに取り押さえる権限がない旨なじったり,トイレに行くことを要求したりしながらも,警察官の警察署への同行の説得を受け,渋々ながらエレベーターに乗り,警察官も被告人から人目にさらすのかといわれれば,同乗していたものをエレベーターから降ろすなど,被告人をあれこれなだめることにより,百貨店に隣接する中央警察署に行くこと自体には応じさせていたものと認めるのが相当である。途中,百貨店から中央警察署までは,4名の警察官に周りを取り囲まれ,そのうちの1名が被告人の左腕を巻くようにしてつかみ,他の1人が被告人の腰に手を当てるなどしていたことが認められるが,なだめながら連行する際にこの程度のことが行われたからといって,事情聴取する必要性の高い被告人に対するものとして必要やむを得ない措置であったといえるものであって,任意同行の態様として行き過ぎがあるとはいえず,これをもって逮捕と見ることはできない。原判決は,この点につき,百貨店から被告人を連行しようとした時点において警察官が被告人を実質的に逮捕したと見るべきである旨説示した上,緊急逮捕できる状態にあったから,逮捕の違法性は重大でない旨の説示をしているが,右のとおり,右時点で実質的には逮捕があったとしている点は是認し難いというべきである。

さらに,中央警察署に同行された後,午後8時20分通常逮捕されるまでの間引き続き署内に留め置かれた点についてみるに,留め置きはいささか長時間に及んでいるといえるものの,被告人からの事情聴取と並行して,百貨店の店員から被害事実につき聴取し供述調書を作成するなどして通常逮捕状の請求手続を行っていることが認められるばかりか,被害事実の聴取により詐欺の嫌疑が十分に認められる状況になっていたことからしても緊急逮捕できる状態にあったこと,その間被告人も,居丈高に百貨店の従業員や警察官らの行為の不当を言い立てていたとはいえ,退去しようとするなどの素振りは見せていないことなどからすれば,通常逮捕までの経過時間がやや長いことをもって,違法とはいえない。

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